業界の一部では死んだことになってるそうですが


by Count_Basie_Band
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

たかが鼻濁音

 一時、「様」の面白い使い方が目立ちました。「ユーザー様」ぐらいは「お客様」の延長でしょうが、「貴社様」が定着していました。たとえば不良品に対する苦情の文書でも相手方を「YY株式会社様」と書いてあったりします。大傑作は、某金融機関の文書にあった「要注意先様」「破綻懸念先様」「破綻先様」です。ここまで行くと大笑いです。淋しいことに、最近は見かけなくなりました。
 高校の現代語の時間に
*****************
「XXさせて頂きます」という言い回しや「組織団体肩書にサン、殿、様などの敬称」を付けるのはいずれも香具師の口上に起源があり、軍隊生活を通じて一般人にも広がった表現だから諸君には使って欲しくない
*****************
と教わりました。
 「XXさせて頂きます」はすっかり定着したようですが、私はいまだに使えません。「XXしたいと思います」「XXいたしたく存じます」と言います。相手が「XXさせて頂きます」と言ったら笑いながら「ダメです」と答えてやります。
 日本の大学で英会話と英作文を教えているイングランド人の友人は、生徒が会話の途中で「You know?」という、アメリカ語ではお馴染みの間投詞を挿むと即座に「I don’t know」と答えます。同じ感覚ですね。
 高校野球で監督が相手の学校を「さん付け」で呼んでいるのを聞くと非常な不快感を覚えます。主婦たちが買い物行く店を「○○屋さん」と呼ぶのを耳にすると「あなた、その店のお客じゃないの。それとも何か借りがあるの」と訊いてやります。
 「~では」で切るのも完全に定着したようです。テレビ、ラジオなどの音声メディアから活字メディアまでが「~では」で切ります。私はこれも使えません。「~ではないでしょうか」と最後まで言い切ります。時々変な顔をされますし、編集者に切られることもありますが、私は頑強に最後まで書き切ります。編集者が切ったら怒鳴りつけます。著作権者は私ですから勝手はさせません。私の責任でやっていることです。
 言葉に関する議論で最も激しい攻撃を受けるのは「鼻濁音」の問題です。「とうの昔に消え去った鼻濁音を保存しようなんていう呆けジジイはサッサと死ね」とまで言われたことがあります。
 鼻濁音は「とうの昔」に消えたでしょうか。森繁久弥や森光子のような超老人はもちろん、若い歌舞伎俳優や無名の演歌歌手だって正確に使っています。要は訓練なのです。一生の間に使う機会があるかどうかわからないアメリカ語の「th」「fとv」「rとl」「er以下の複雑で微妙な母音」を無理矢理練習させながら、僅か5個しかない鼻濁音をなぜ練習させないのか、理解に苦しみます。ある尊敬する先輩から「NHKでは、かなり以前からアナウンサーに対して、鼻濁音の強制をやめ、採用基準からもはずしています」と教わりました。何たる無責任。
 大学のコーラス部での経験では、鼻濁音皆無の山陰地方出身の学生でも2年以内には完全に使いこなせるようになりました。『広辞苑』では「呼気を鼻に抜いて発音するガ行音。東京その他では語頭以外のガ行音や助詞の「が」「がな」などは鼻濁音で発音するが、この音韻の存在しない地方も多い」と定義解説されていますが、私の定義では「鼻をつまむと声が出ない音」が鼻濁音です。簡単なのです。
 「鼻濁音保存論」に最も激しく食いついてくるのは関西地方の人々です。「いまどき、鼻濁音なんて誰もつこてまへんで」と言ってきたら、私は「昔の上方落語を聞いて、それから今の吉本の芸人の発音を聞いてみなはれ」と言い返します。現役の漫才師やバライエティ・タレントも鼻濁音を使っています。第一、私に噛み付いてくる人たち自身が使っています。
 発音できないのではなく、聞き分けられないだけなのです。耳が劣化しているだけなのです。「耳の悪いヤツは頭が悪い」は、大学のコーラスの先輩の言です。となると「耳の劣化」は「頭の劣化」を意味しますね。
[PR]
by Count_Basie_Band | 2006-06-05 12:59